異文化コミュニケーション術は身に付けるべきか?:Business Success Japanオンラインディスカッション

By Shiho Baisho

ビジネスではグローバル化が叫ばれて久しいですが、依然、異なる言語や歴史、文化背景が原因で、日本、海外のビジネスパーソン双方が、大小さまざまな問題を経験しています。日米市場それぞれでビジネス経験があるアンソニー・グリフィン(Saga Consulting プリンシパルコンサルタント)は、2020年11月、Business Success Japanのポッドキャストにゲスト出演し、Lydia Beukelmanと異文化コミュニケーションで何が重要かディスカッションしました。

 INDEX

①日本企業のヘンテコ英語キャッチコピーは「異文化コミュニケーション」の賜物

②異文化コミュニケーション術を身に付けるために重要なこと

③異文化コミュニケーションを身に付けられない人が陥っているワナ

④外国人が日本で働くための異文化コミュニケーション


①日本企業のヘンテコ英語キャッチコピーは「異文化コミュニケーション」の賜物

国際舞台で英語は無くてはならないツールであることはこのコラムをお読みになっている方にとっては当たり前のことでしょう。さらに言えば、どのようなスタイルの英語でも(英語圏で使われているような英語でなくとも)、コミュニケーションが円滑に取れるならば問題ないのではないでしょうか。また日本では、国内市場のみをターゲットにしていても、商品名、店名、ビジネス用語、アカデミック分野の専門用語等さまざまなところで英語が使われています。しかし、それらの英単語、英文法、ニュアンスは、英語圏の人々にとって時々、「少しヘンテコな英語」にうつる時があります。もちろん意味は理解できますが、ニュアンスとして自然ではない時があるという意見は少なくありません。そして英語圏の人が不思議に感じるのは、完璧主義と名高い日本企業、組織がなぜそのような違和感がある英語を使ってきたのかということです。

それを紐解くと、まさに日本の文化に合わせたコミュニケ―ション用の英語コピーであり、その言葉に慣れてきた日本人にとって心地よい言葉遣いとして受け入れられてきたということなのです。もちろん、日本のグローバル企業が英語圏にむけてキャンペーンを行う際のコピーは、現地のネイティブチェックを受けるでしょう。それはターゲット市場と正しく異文化コミュニケーションを行わなくてはならないからです。アンソニーによると、Saga Consultingでは英語でのコピーをコンサルティングする際は、必ずターゲット市場の文化的背景や、根差している言語、そして最新の言語トレンド等の確認を重要視しているとのこと。つまりコピーは、ターゲットの文化に馴染み、そこで生活する人々に対して正しく伝わるべきなのです。したがって、英語圏ネイティブチェックでははじかれるようなヘンテコ英語も、正しい異文化コミュニケーションの在り様と言えるのです。


②異文化コミュニケーション術を身に付けるために重要なこと

ビジネススクールを中心に、多くの高等教育機関で異文化コミュニケーションについて学ぶ場が提供されています。ビジネスのグローバル化が進展し、日本でもすでに多様な人々が同じ職場で働くなど環境に変化がある中で、わざわざ異文化コミュニケーション「術」を身に付ける必要があるのでしょうか。答えは、日本ではYesでしょう。総人口に占める外国人比率が約2%と少なく外国人居住エリアにも偏りがある日本では、人々が多様な価値観に常に触れ、意識せずに異文化コミュニケーションが身に付けていくというのは至難の業です。

では、積極的に異文化コミュニケーション術を習得しようとする上で重要な点は何でしょうか。ビジネスパーソンや大学等、多くの場で異文化コミュニケーション・マーケティングを教えてきたアンソニーは、「オープンマインド」が最も重要であると説きます。

日本人で異文化コミュニケーションを身に付けようとしている人は、グローバルマインドがある人が多く、またインターネットで検索すれば、各エリアの異文化に関する情報を簡単に知ることができます。その異文化に関する情報を持ちながら、どのようなバックグラウンドをもった相手に対しても「オープンマインド」でアプローチし、互いに協力関係を築く実践的な経験が重要なのです。アンソニー自身が提供する講義やトレーニングにおいても、文化的背景に関するインプットを大切にしながらも、ケーススタディを通して、実践的な場で繰り返し緊張しながらも徐々に慣れ、成長していくというステップを踏んでいます。

このオープンマインドの「オープンさ」についてはやや曖昧で難しく感じる方もいるでしょう。これに対しては、今までのご自身の感覚を参考にするのが分かりやすいです。例えばマーケティング戦略などで、日本市場ではこれは過激だな・・少々やりすぎかな・・というようなアイディアでもまずはフラットに耳を傾けてみよう、というのが「オープンマインド」への第一歩です。また具体的な行動としては、仮にカリフォルニアのネットワーキングイベント内で各自自己紹介する機会があるならば、日本風に名刺を配るのではなく、LinkedInアカウントの交換など現地の文化を取り入れてみるのもいいでしょう。

さらに、実際のビジネスの場でクライアントが欧米企業であればプレゼンテーションの際に、時代の変化や相手の文化をオープンマインドでとらえ話し方を変えてみるチャレンジも効果的です。冒頭の定型文的な自己紹介に代えて、注目を引くような統計結果や聴衆者への質問から始めたり、文章ではなく、アニメーショングラフィックを資料に盛込むなど、これまでの定石と異なる手法にチャレンジすることで自身の異文化対応能力を広げる効果も得られます。もちろん、先方がどのような企業文化を持つか考慮し、仮に保守的な企業であった場合は、引き続き伝統的な方法でプレゼンテーションするのが最良の方法であるのは間違いありません。相手が持つ異なる文化に対して「オープンマインド」で臨み、柔軟に対応するのがプロフェッショナルの仕事の仕方です。



③異文化コミュニケーションを身に付けられない人が陥っているワナ

前項で触れた点の反対、つまり「オープンマインド」を持たない人は、なかなか異文化コミュニケーション術が身に付きません。

他方、日本人の前向きな学習者で「オープンマインド」も持ち合わせているのに、異文化コミュニケーションがうまくいかない・・と悩んでいる方も多く、また日本にいる外国人がコミュニティに溶け込めず苦労している問題も存在します。果たして日本人は他国に比べ、異文化コミュニケーションが不得意なのでしょうか。日本は島国のなかで長い歴史と文化を育んだから特別なのでしょうか。Saga Consultingのコンサルタントの共通見解は、厳しい言い方かもしれないですが、語学力(英語力)を異文化コミュニケーションが上手くいかない理由にしている日本人ビジネスパーソンが一定数いるということです。語学に堪能な日本人ビジネスパーソンでも、海外出張に行き、現地で会議やネットワーキング、そしてプレゼンテーションを行うことに大きな不安を抱え、失敗してしまった場合は、安易に自身の英語力を理由にしがちです。その理由については明確な裏付けはないものの、言語力が具体的で測定可能である一方で、会話力が高いか低いかというものは非常に曖昧で分かりづらいということが言えます。

日本では英語学習、英会話業界が一大産業であり、具体的な情報があふれており、語学ができる人は一目を置かれる雰囲気もあります。しかし残念ながら英語が完璧でも、完璧な国際ビジネスパーソンに必ずなれるものではありません。例えば、英語が母国語のビジネスパーソンでも、国際舞台でのネゴシエーションが苦手な人も多くいます。相手と対立することは、使用言語に限らず皆が避けたい問題なのです。つまり異文化コミュニケーションの能力不足は、語学力だけが全ての原因ではないのです。この点を考慮し、Saga Consultingの異文化コミュニケーションのトレーニングでは、相談者と向き合い対話の中で各人のクリティカルポイントを探ってから習得へむけたプランを立てます。ネゴシエーション術の習得などについては、必要であれば本などを用いてテクニックを学ぶのもいいでしょう。なぜなら日本人のビジネスパーソンは、交渉テクニックを知らないだけのことがあるからです。それらテクニックについてケーススタディを通して体感し、さらに実践を積んで習得していくという時間のかかるものなのです。改めて強調すると、異文化コミュニケーションがうまく行かない理由を短絡的に語学の問題とせずに、根本原因を探ることが重要なのです。

そしてまたアンソニーによると、日本ビジネス市場においてパーソナルブランディングについて考え異文化コミュニケーションに活かすことができている人は少ないという分析があります。自身のコアコンピタンスを反映したブランドは、プレゼンテーションなどのビジネス活動から、LinkedInプロフィールの見せ方まで統一しなければなりません。日本では公私、オフライン/オンライン上においての見せ方、情報発信の仕方がバラバラであることが多いのではないでしょうか。特に日本では、オンライン上では匿名で活動することが好まれ、自身のキャリア等について公開することには抵抗がある方が多いでしょう。しかし、プライベート情報を公開することと、自身のブランディングやビジョンを伝えることは別です。プライバシーを守りながらパーソナルブランディングを構築することは可能です。具体的な例としては、世界中のビジネスプロフェッショナルが利用するLinkedInでは、ソーシャルメディアでありながら、ビジネスに特化したブランディングや情報発信が可能であり、日本企業も注目しています。Saga ConsultingのコラムではLinkedInのTipsについてたくさん紹介していますので、ぜひこちらもご覧ください。

昨今大きなテーマであるグローバルマーケティング戦略においても、異文化コミュニケーションがますます重要なポジションとなっています。対象国の情勢に合わせて最適な媒体・プラットフォームを選び、コンテンツを練って投稿していかなければなりません。そしてもちろん、ソーシャルメディアに投稿する内容1つにとっても、各国の文化的背景や情勢に応じて検討しなければならず、1対Nの異文化コミュニケーションと言えます。


④外国人が日本で働くための異文化コミュニケーション

最後に、外国人が日本でビジネスに携わる為に大切な異文化コミュニケーションについて考えます。日米それぞれのビジネス慣習を知り、文化的架け橋を担っているアンソニーも最初から異文化コミュニケーション術を備え、日本でのビジネスに野心的なプランがあったわけではないと語っています。彼は、80年代90年代の幼少期にアメリカ・カリフォルニアで日本の成長について肌で感じ、学生時代の日本語授業や、日本での旅を通して文化と触れ合う中で、異文化コミュニケーションの大切さを学びました。日本で日々過ごす中での小さな気づきや違和感、学びの積み重ねが異文化コミュニケーションの土台を作り、それに追加して自身のパーソナルブランディングやMBAの知識を活かしながら多くの日本人ビジネスパーソンと接する中で、異文化コミュニケーション術を習得しています。

アンソニーの経験から導き出されたこととしては、日本のマーケットで活動しようとしている外国人は言語習得がキーファクターのひとつだということです。日本語を学び、正しく丁寧な言葉でコミュニケーションを自由に行うことができれば、日本社会に素早く馴染むことができ、さらにビジネスコミュニティに貢献したいという姿勢を示すことができます。現代社会ではポジティブな事、ネガティブな事、様々な事が発生し常に複雑な環境下にあります。その中で外国人のあなたが日本人に共感し、寄り添ったコミュニケーションを行えることは、長期的な関係性構築に非常に役立ちます。その関係をフルに活用することで、確固としたビジネスチャンスをつかむことができるのです。アンソニー自身が実際に日本の文化に慣れるためにトライしたステップやエッセンスについてはこちらにも詳しく紹介しています。

1つ取り上げるとするならば、現代社会ではやはり日本でもオンライン、オフライン共にネットワーキングを意識していくことです。世界的にはLinkedIn、日本ではFacebookなど、実際に会った人と継続的に情報交換する術を持っておくことが重要です。日本で働く外国人はFacebookを利用していない人もいるでしょうが、自身のブランドページだけでも作成しておくことをおすすめします。シンプルに考えても、経済大国世界第3位で人口が多く独自のマーケットをもつ日本は、外国人のビジネスパーソンにとってポテンシャルの高いマーケットでしょう。しかし、ソーシャルメディアのコンテンツはおろか、海外ですでに広く受け入れられているサービスであっても、サービス内容や商習慣をそのまま日本に移植することはスマートな方法とは言えません。実務的にも日本市場に合った商品サービスを提供するために調査やカスタマイズに時間をかけなければなりませんし、コミュニケーション手法についても戦略を練る必要もあります。これらの作業は膨大で時には非効率と感じる組織もあるでしょう、しかしこれら取組み、コミュニケーションを通して現地市場と長期的関係性も構築されていきます。日本市場はこの努力を行う価値があるマーケットであり、とても魅力的だということを声を大にしてアンソニーは伝えています。

往来がなかなか難しい昨今、異文化コミュニケーション術を体得するのは以前に比べ難しくなってきているかもしれません。しかし、オープンマインドやパーソナルブランディングは個々人が意識し磨くものであり、努力は必ず私たちを変化させます。ぜひこのチャンスを逃さず異文化コミュニケーション術を皆さんの武器にしてください。



 最後までお読みいただきありがとうございます。