見逃してはいけない!ソーシャルメディアの米国トレンド

By Shiho Baisho

皆さんにとってソーシャルメディアといえば何でしょうか?プラットフォーム、情報発信、バズり、炎上、等々いろいろなイメージがあると思いますが、流行り廃りが激しくソーシャルメディア全体としてのトレンドがつかみにくいという状況なのではないでしょうか。つかみにくい理由は、まさに市場変化のスピードにあります。ほんの数年前に思考錯誤しながら使い始めたソーシャルメディアが、気づいたらそのサービス諸共オールドファッションになっていたということも珍しくありません。コミュニケーションやマーケティングの仕事に携わる方は、そのドラスティックな動きを少しでも先づかみすることが大切なのではないでしょうか。今回は、米国・Gen Z世代を切り口にソーシャルメディアトレンドを先づかみするヒントを分析していきます。

 INDEX

①Twitter騒動によって、どのプラットフォームが得をした?

②ソーシャルメディアの収益モデルはどう変わる?

③ショート動画 vs ロング動画

④Gen Zはどこに向かう?


①Twitter騒動によって、どのプラットフォームが得をした?

多くのメディアを賑わせたTwitter買収劇。日本での関心の高さは、Twitterが情報インフラやコミュニケーション手段として日本市場にしっかり根付いていることを感じさせます。本場米国でもTwitterはソーシャルメディアの老舗として幅広い年齢層に利用され、コアユーザ層は25歳~44歳と広く、ユーザーデモグラフィックも日本と似ているところがあります。では、この米国のTwitterユーザー数は、買収騒動の中どのような推移を示したのでしょうか。eMarketerのデータによると、2024年までに米国でのTwitter月間ユーザー数は800万人減少し、この10年間で最もユーザが少なくなると予想されています。なぜなら、Twitterが築き上げてきた社会、文化、流通する情報内容が変わってしまうことや、サーバーダウンなどの技術的問題がネックとなり、コアユーザーであればあるほど失望感が大きいという理由が挙げられています。米国全体のユーザー数は6,000万人弱と考えると800万人減少というのはインパクトがあります。もちろんボットや休眠アカウントなど整理されるべきアカウントも減少数に含まれているでしょう。しかし、ユーザー自身が相互に情報発信を行うことで成り立つプラットフォームゆえ、母数全体が縮小することは良いニュースではありません。そして、注目したいのが、Twitterから離脱したユーザーたちが、その時間をどのプラットフォームに割くのかということです。人が1日にソーシャルメディアに費やせる時間の上限は変わらないため、他のプラットフォームはTwitter離脱者の時間を虎視眈々と狙っているでしょう。日本では2023年1月現在ではまだ大きな動きは出ていませんが、米国では、Redditが月間ユーザー数でTwitterを抜くのではないかと言われています。Redditはユーザ同士が教え合う掲示板型の情報コミュニティで、ユーザー数は4億人を超え、半数が米国です。知りたい事を教え合い、コミュニティで情報の正確性を高めていうRedditスタイルは、買収報道後コンテンツモデレーションで懸念を抱かれているTwitterより安心できるとされています。筆者も同僚から、仕事に関係する情報源としてRedditリンクがそのまま送られてくることもあり、実用的な知恵袋・・といった印象です。しかし一方、実用的だからこそ混乱を招くこともありRedditに投稿された投機的な投資情報により数百万人が金融取引を行い米国金融市場を混乱させる事象もあり、Twitter同様、コンテンツモデレーションには限界があります。

そして、Twitter離脱者が情報を得るもう一つの代替手段となりそうなのがビジネスソーシャルメディアのLinkedInです。Saga Consultingでは過去にもLinkedInの強さについて分析していますが、米国を中心に世界中で10億人に迫るビジネスパーソンが利用し、個人・企業アカウント共に最新の業界トレンド等を発信しています。パンデミック後の求職者増加の影響もあると考えられますが、近年のLinkedInにおけるネットワーク拡大には目を見張るものがあります。ビジネス主体で有益な情報をシェアするスタイルであることから、Twitterで活躍していたオピニオンリーダー達がLinkedInのネットワーク上存在感を増す流れができています。

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 ・LinkedInでビジネスネットワークを主体的に広げる戦術

このように、米国では日本よりTwitter騒動がユーザー行動に影響を与えているように見えるのではないでしょうか。これは老舗から新興ソーシャルメディアへの新陳代謝が活発な米国市場ならではとも言えますが、米国に次いでTwitterが活発であるとみられている日本市場においても意識しておくべきトレンドでしょう。

②ソーシャルメディアの収益モデルはどう変わる?

ソーシャルメディアに流れてくる広告を100%大好き!という方は少ないでしょう・・プラットフォームを無料で使っているから少々広告があってもしかたがない。という気持ちなのではないでしょうか。ソーシャルメディア広告の存在が認知されてきている一方で、ほとんどのソーシャルメディア企業では広告収入の成長が鈍化しています。Gen Z世代に爆発的な人気があるショート動画の雄TikTokですら米国での広告収入の伸びが鈍化しています(2021年170%増→2022年140%増、eMarketer調べ)。そのため各ソーシャルメディアは、広告に代わる収益源をまさに現在進行形で模索しているのです。前項で触れたTwitterは新しい経営陣を迎え、ユーザー数の伸びよりも利益にフォーカスした経営に舵を切られたことから安定的に使用料が入るサブスクリプションモデルの導入が一気に進みました。2023年1月から日本でも登録が可能となった「Twitter Blue」は、青バッジの配布や投稿後のツイート編集が可能などの機能により一部話題になっていますが、本場米国でもアンケート調査では利用に前向きなユーザが半数に満たないようで、サブスクリプションモデルの難しさを物語っています。他にも米国ではSnapが「Snapchat+」を提供し、2022年8月には利用者が100万人を超えたと発表しました。過去データを残さないスタイルのSnapchatでも$3.99の「Snapchat+」に登録すれば自身のストーリーを多く視聴しているフォロワーが確認できるなど、ソーシャル重視のユーザには魅力的な機能がありますが、Snapchatのメインユーザー層がティーンであり、未就業であることを考えるとサブスクリプションモデルが浸透するかは不透明です。日本においても、ゲームやエンタメ有料コンテンツへの課金の習慣はあるものの、コミュニケーション自体に課金をするかどうかはどれだけ魅力的な機能があるかどうかにかかっており、サブスクサービスが、ソーシャルメディア企業経営を支える収益源になるかは未知数です。サブスクリプションモデルの他には、InstagramやTikTokがコマースプラットフォームをスタートし、情報発信から物販まで一気通貫で担おうとしています。McKinsey & Companyは、米国のソーシャルコマースによる売上規模が2022年の約$46Bから2025年の約$80Bに急拡大すると予想しています。しかしそれでもEコマース市場全体に占める割合は約5%と小さく、ECビジネスという巨大で激しいマーケットの中でソーシャルメディア企業がどこまで戦っていくのか(戦わないのか)は今後注目に値します。

③ショート動画 vs ロング動画

米国に住む成人に対する調査では、平均して1人1日に60分Netflixを観ていました(2022年、eMarketer調べ)。興味深いのは同調査で、YouTubeとTikTokが共に平均46分の視聴時間であったことです。米国ではYouTubeとTikTokのユーザー数に2倍以上の開きがあり、またTikTokのサービス提供には国際政治情勢も関係することからトレンドが変わるかもしれませんが、2022年時点ではショート動画は米国で確固たる地位を築いていると言えます。TikTokのショート動画を愛するティーン層が成人し、本格的な消費活動を開始する数年後にはYouTubeが得ている広告収入を奪う地殻変動が起きているかもしれません。またロング動画サブスクリプションの代名詞ともいえるNetflixも広告が挿入されるプランを開始。米国ではHBOやHuluがすでに広告が入る低価格モデルをスタートさせており、これらの動画ストリーミングサービスが映像広告の出し先として広告主からも支持されサービス成長につながれば、YouTubeの牙城を崩すかもしれません。

④Gen Zはどこに向かう?

再び視点を若者世代、特にGen Z世代に移しましょう。少子高齢化が進む日本では、Gen Z世代は全人口の10%台前半です。したがって、日本在住の方でGen Zメンバーと関わる機会がたくさんある方はソーシャルメディアを考える上で恵まれている環境でしょう。他方、米国ではGen Z世代は20%を超え、Gen Z世代ひとつ上のミレニアル世代と合わせると人口の4割を超えます。この若い層が米国のあらゆるムーブメント醸成、消費活動の中心を担う集団となってきているのです。デジタルの世界では殊にGen Zを意識し、ゲーム、コミュニケーション、教育、アート、web3等さまざまな分野において恐ろしいスピードでサービスの新陳代謝が起こっています。Gen Zとソーシャルメディアの関係については無数に論点があるので、今回は米国における「新興ソーシャルメディア」と「近年Gen Zがソーシャルメディアで重視していること」の2点にフォーカスして考えます。まず1点目についてです。米国Gen Z世代が愛するプラットフォームと言えば、YouTube、Instagram、TikTok、Snapchatですが、この中で2018年に米国でサービスを開始したTikTokが2010-2011年にスタートしているInstagramやSnapchatと肩を並べていることがこの世界のスピードを示しています。さらにいま、米国欧州のGen Z世代の間で話題になっているソーシャルメディアは、TikTokよりも新しい「BeReal」というサービス。2019年に米国でサービスを開始してから1年足らずしてすでに米国Gen Z世代の3分の1が使用経験ありというので驚きです。BeRealは、その名の通りフィルターや加工なしの「リアルな」写真を1日に1回投稿するアプリです。アプリからランダムに通知が来てから2分以内に今いる状況で撮影した写真を投稿するという仕組みになっています。あらかじめ撮影した写真を「加工で盛る」ことができないリアルな状況を共有するソーシャルメディアなのです。以前はアバター機能や加工アプリで盛り盛りに加工した「映え写真/動画」を投稿していた同世代が、今度は「素のリアル」を投稿している変わり身の速さについていけない・・と感じた方も多いと思いますが、これがGen Z世代のトレンドスピードなのです。Gen Z世代とソーシャルメディアを考える論点2点目は、米国Gen Z世代がソーシャルメディアで重視しているポイントとして、つながり」が挙げられるということです。コミュニケーションやマーケティングの仕事に携わっている方は、ソーシャルメディアを世界へ向けた情報発信の場として見ることがあるかもしれません。Gen Z世代もアクティブに情報発信を行っていますが、それはその先にある「つながり」の為なのです。Gen Z世代はいくつかのソーシャルメディアサービスやそれぞれの機能を使い分け、自身の興味関心のあるトピック専門のグループ内で盛りあがったり、リアルな友達グループをそのままソーシャルメディアに持ち込んでいたりと、想像以上にミクロなコミュニケーションを行っています。この志向を察知したTiKTokでは、素早く「友達タブ」機能を作りフィードを仲の良い友達の動画に特化できるようにしています。

ゆるやかながらも人口が増え続けている米国では2023年、ソーシャルメディア全体の月間ユーザ数の3分の1はGen Z世代が占められると予想されています。ダイバーシティとデジタルが当たり前の世界でつながりを求める彼らが、今後もソーシャルメディアトレンドの中心となることは誰も反対しないでしょう。米国トレンド、とりわけGen Z世代がどこに向かうのかを知ることは、コミュニケーションの仕事に携わる人には重要なことです。


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