日本のゲーム産業はグローバルでどう輝くのか
/By Shiho Baisho
ゲームが好きな方も、そうでない方も、日本のゲーム産業が一大産業であり、生み出されるゲームに世界中のファンが魅了されていることを少なからず見聞きされているでしょう。アンソニー・グリフィン(Saga Consulting プリンシパルコンサルタント)は、日本のゲーム産業を国内外の視点、そしてビジネスの観点から長年見続けている立場で、近年起こっている同業界の地殻変動とこれからも日本のゲーム産業がグローバルに輝き続ける戦略について深掘りします。
INDEX
①世界のビデオゲーム市場について
PwCの「Global Entertainment and Media Outlook 2022-27」によると、世界のビデオゲーム市場は2023年に2,270億ドルを超えると予想されています。これは、世界の映画産業の5倍以上の規模です。ゲーム産業は減速の兆しがなく、2027年には3,120億ドルを超えると予想されています。パンデミックが人々の行動を変容させ、エンターテイメント・メディア業界にも多くの影響が出た中、ゲーム分野の存在感がますます増しています。
私たち、そして日本のゲーム会社にとって特に注目すべきことは、最大のゲーム市場は日本国内ではなく、海外にあるという事実です。データソースによって異なりますが、世界最大(もしくは第2位)のゲーム市場は米国です。コンソールゲーム分野に限って言えば、日本市場は世界第4位で、世界市場の7%を占めるに過ぎません。世界中で販売されるようなメジャー級ゲームタイトル、いわゆるAAA(トリプルエータイトル)ゲームの制作予算が膨らみ続ける中、日本のゲーム会社が収益を上げるために海外市場を優先することはますます重要になってきています。スクウェア・エニックスの松田洋祐社長(2022年当時)は、Yahoo Japanのインタビューで、「ゲームの市場はグローバル化しています。以前は国内市場が大きかったのですが、現在は中国やアメリカの次に甘んじているのです。グローバルでも認められなければビジネスになりません。」と述べ、日本のゲーム業界トップ企業の危機感を感じられます。
②世界のゲーム市場における日本のゲーム会社の存在感とは?
PlayStation 5やNintendo Switchといった日本のゲーム機や、マリオ、ゼルダ、エルデンリング、ファイナルファンタジーなどのゲームコンテンツが海外でも大人気であることからもわかるように、現在、日本のゲームブランドは今までの中で最も世界的に素晴らしい地位を築いているでしょう。しかし、日本のゲーム業界が、過去もずっと世界的に常に繁栄しているわけではありませんでした。
GameIndustry.bizの記事にもあるように、1980年代初頭に任天堂がファミコン(海外ではNES)で業界を盛り上げ、その後2000年代に入ると日本のゲーム会社は欧米のライバル企業との激しい競争にさらされることになります。ハードウェアの進歩として、マイクロソフトの「Xbox」に代表されるゲーム機がパソコンと両方でプレイできるようになり、またゲームソフトのジャンルの進展として、オープンワールドのゲームやファーストパーソン・シューティング(一人称視点のシューティングゲーム)など、日本のゲーム制作会社が得意としないジャンルのゲームがブームになり、日本勢は苦戦します。MAGIC2023のパネルディスカッションで、『悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲』の開発者である五十嵐孝司氏は当時を振り返り、「コンソール向けとPC向けの開発に大きな差がなくなった時点で、日本の開発者はコンソール向けの開発者としての専門性に頼れなくなり、PC向けの開発を習得しなければならなかった」と述べています。
このような業界の変化に対して、日本の制作会社は反射的にいわゆる「洋ゲー(欧米会社が開発したゲーム)」の模倣を急ぎましたが、その結果は芳しくありませんでした。前出のスクエア・エニックス松田氏は、「日本の開発者が欧米のゲームを真似ても、いいものはできない」と説明します。「欧米タイトルを真似ていても、モンスターのデザインや、映像や音響の効果が、どこか日本的で、そしてそれが日本のゲームの良さだと、世界中のプレイヤーは知っている。」と話しています。幸いなことにほとんどの日本企業は、グローバルなゲーム業界における技術的・文化的な変化に追いつき、欧米のゲーマーは日本企業の洋風ゲームを求めていないことに気づきました。ゲームを愛する世界中の人々は、日本の文化や物語を取り入れた日本ならではのゲームを求めていたのです。ファイナルファンタジーの生みの親である坂口博信氏は、前述のパネルディスカッションで、「欧米会社が開発したゲームが主流になったときでも、日本勢はそれに影響される必要はないと思っていた。まずは日本の文化的背景を大切にすることが、我々のゲームが人々を惹きつけるのだ。」と語っています。
③日本のゲーム会社が海外に市場を拡大する方法
2000年代初頭、多くの日本企業が欧米のゲーム制作スタジオを買収することで事業を拡大しました。しかし、この方法が一般的に成功したとは言えないことは、時を経て証明されてしまいました。日本のゲーム業界を創業時から見てきたアンソニー・グリフィン氏は、日本のゲーム会社が海外に進出する際に、共通して以下2点を行ってきていると言及しています。
• 海外インフラへの投資(現地オフィス、マーケティングチームなど)
• ローカライズの改善と迅速化
特に後者の点は重要だと同氏は強調します。日本のゲームタイトルは、比較的最近までまず最初に日本で発売され、それから他の市場で発売されていました。今世紀に入ったころには、このタイムラグが1年以上に及ぶことも少なくありませんでした。しかし今では、日本企業は最新ゲームタイトルを世界同時に発売するよう大きな努力を払っています。IGNの記事にあるように、「世界同時発売は、日本のゲームがこれまで以上に大きく、即座にグローバル市場にインパクトを与えることができ、1つのゲームだけでなくそのシリーズ全体への関心をより持続させることができる。」という効果があります。また、ゲームを同時発売することで、グローバル市場でメッセージを同期させたり、その他マーケティングアセットの共有を行うなど、マーケティング活動の効率化にもつながります。
海外のゲーム機市場は成長し続ける一方、日本のゲーム機市場は縮小を続けているため、ローカライズへの投資や世界同時発売がこれまで以上に重要となっています。Niko Partnersのシニアアナリスト、ダニエル・アーマッド氏(IGN掲載)によると、「日本はPS1の売上の20%を占めているが、PS4になると日本の売上は世界全体の8%分でしかない。プレイステーションのゲームの開発費が高いうえ、前世代よりも国内の販売可能性が低い状況を考慮すると、日本の制作会社はHDコンソールタイトルの販売においてグローバルなアプローチを取ることが得策となっている。」と分析されています。
④日本のコンテンツがグローバルで勝ち残る戦略
国際的に愛される日本の知的財産コンテンツを理解し、活用、保護することは、成功を確実にするための最良の方法の一つです。幸いなことに、日本企業もこのことに気づき始めているようで成功事例もみることができます。ソニックやマリオのコンテンツを用いた映画シリーズ化は、日本が誇る知的財産を適切に管理し、クオリティーを管理し、さらに視覚効果技術の進歩によって成功したものです。
最後に、アンソニー・グリフィン氏は日本での14年間の生活を振り返りながら、多くの人が日本の文化や知的財産のグローバルにおける価値を過小評価していると指摘しています。グローバルな成功への第一歩は、日本が現状多くの価値を生み出し、世界中の消費者が日本ならではの体験を求めていることを理解することであり、このことはゲーム・エンターテイメント業界に限らず多くの日本企業に通じるものだと力説します。さらに同氏がコンサルタントとして日本企業のグローバルコミュニケ―ションを支える立場から、日本企業が行えるコンテンツ利用の実践的な例としてソーシャルメディアの活用を挙げています。企業が自社のコンテンツをグローバル市場に展開する際に、地域ごとにローカライズをどのように丁寧に行い、現地に受け入れてもらえる工夫を行っているかという「プロセス自体」をソーシャルメディア上に投稿するなどして、コンテンツのクオリティーを伝えると共に、ファンとのコミュニケーションを通してコンテンツを成長させることができます。適切な戦略を用いることで、日本のコンテンツが今後も世界中の人々を魅了し続けるのです。
最後までお読みいただきありがとうございます。