グローバルにビジネスを”売り込む”マーケティングインサイト-ポッドキャストインタビュー
/by Shiho Baisho
Business Success Japan ポッドキャストにアンソニー・グリフィン氏が2回目のゲスト登場。グローバルにお仕事を展開される日本の方、日本でビジネスネットワークを広げようとしている海外の方、両方に向けてためになる話をエッセンスを凝縮してご紹介! 日本のビジネス環境におけるマーケティングとコミュニケーションの重要性にフォーカスをあて、日本市場のビジネス環境の分析や、 LinkedInなどを用いたグローバルなマーケティングインサイト、さらには日本の知的財産の価値などについて、アンソニー・グリフィン氏の経験や洞察を最新の動向を交え共有します。
1. 日本のビジネス環境は完全に欧米化したのか
日本におけるビジネススタイルは、欧米のやり方と共通する部分もあります。しかしやはり日本はさまざまな文化を持ち、ビジネス環境も独自のものです。つまり、日本で仕事をすることは、多くの場合、欧米で仕事をすることとは大きく異なります。文化的な違いやコミュニケーションスタイルの違い、ビジネスマナーやエチケットの違いなど、海外の方が習得すべきことはたくさんあります。しかし、それらの違いに挑戦することは、貴重な経験になり、自分自身や相手の理解を深めることにもつながります。誇張ではなく「別の惑星に来た」というくらいのオープンで中立なマインドできてくださいと、日米共にビジネス経験があるサガ・コンサルティングのプリンシパルコンサルタント、アンソニー・グリフィン氏はアドバイスします。
日本でのビジネスの成功には、日本人の考え方や行動パターンを理解し、信頼関係の構築が重要です。ただ簡潔に仕事をするだけではなく、お客様やパートナーとの長期的な関係を築くことを意味します。そのためには、様々な方法でコミュニケーションの質を高めることが必要です。さらには、マーケティングやブランディングも重要な役割を果たします。日本の消費者や企業は、品質やサービス、価値などに非常に敏感で、自分のニーズに合ったものを選びます。そのためには、自分の商品やサービスの特徴や利点を明確に伝えることや、競合他社との差別化を図ることが必要です。これは大企業のビジネス―パーソンだけが心がけることではなく、個人事業主の方も含めて皆さんが考えるべきことなのです。
2. 日本市場で効果的に”売り込む”には
アンソニー・グリフィン氏は、自らも事業家として自社のマーケティング活動を継続的に行いながら様々なクライアントにアドバイスしています。そして何よりもまずは「マーケティングの定義」を振り返る必要があると伝えます。特に近年では、マーケティングはデジタルマーケティングだけと思われやすく、注意が必要とリマインドしています。デジタルマーケティングが手頃な価格で効果をトラッキングできる媒体として普及して以来、マーケティングの大本命となっています。しかし、あらゆる種類の広告やマーケティングがあることを覚えておくことも必要です。人と直接会う、電子メールのマーケティング、人に直接アプローチする方法もあります。海外の企業が、宣伝目的で路上で広告の入ったティッシュを配ったら、斬新かもしれません。また、日本は米国より小さな国ですが、地域によって消費者の嗜好や行動パターンが異なります。そのため、海外企業は一律に全国展開するのではなく、地域ごとにマーケットリサーチやセグメンテーションを行い、適切なターゲットやチャネルを選択する必要があります。以前、基準が非常に厳しい日本の食品業界に参入した外資企業にインタビューした際にもローカライズの重要さを伝えていました。このように、異文化で複雑な市場で、限られた予算を使い効果的に”売り込む”ためには、日本にいるプロフェッショナルと協力することが不可欠です。日本市場に参入する際には、現地の法律や規制、商習慣などに精通した専門家やコンサルタントに相談することでゴールへより早く近づくでしょう。
しかし、自社にマーケティングチームも予算もない事業者が日本市場に進出できないわけではありません、とアンソニー・グリフィン氏は続けます。例えば、小規模事業者にもおすすめの戦略の 1 つとして、オンラインのデジタルプレゼンスを確保することがあげられます。オンライン上で地道に事業のPRやネットワーキングをたくさん行い、実際のイベントに参加し、直接人々に自己紹介する。オンラインとオフラインでの存在感を出すこと。そしてなによりも日本市場でビジネスにコミットしていることを示すことで、信頼を勝ち得ていくのです。
3. オンラインプレゼンス-存在感を発揮するには
サガ・コンサルティング社では、数多くのソーシャルメディアコーチングを行っており、特にLinkedInの重要性については、本ウェブサイトのコラムでも何度か紹介してきました。XやFacebook、Instagram、TikTokと比べて、LinkedInの日本ユーザプラットフォームは大きくありません。それゆえ、プレゼンスを発揮するには苦労も必要ですが、日本市場に参入したい海外企業、また事業をよりグローバル化させたい日本のビジネスパーソンには、引き続き強力なツールです。 LinkedIn には、バイリンガルで国際的な意識を持った日本の専門家もたくさんいてコラボレーションが加速します。
このコラムを読んで下さる方はすでに実践されているかもしれませんが、改めてLinkedInでプレゼンスを高める方法をおさらいすると以下3点です。
- プロフィールを充実させる:自分の経歴やスキル、関心分野などを明確にします。ここで非常に重要なことは、過去の実績、仕事のポートフォリオを積極的に掲載することです。
- 積極的にネットワークを広げる:自分の業界や分野に関係する人々や団体を探し、コメントやいいねをする。また、オフラインのイベントやセミナーにも参加して、実際に顔を見せていくことが大切です。
- コンテンツを発信/再投稿する:自分の専門知識や意見、体験などを記事や投稿としてシェアする。日本の市場や文化に関する興味深い事例や分析を紹介すると、海外のフォロワーからの反応も得られるかもしれません。
サガ・コンサルティング社のコラムでは他にも、企業がとるべきLinkedIn戦術などについてエッセンスを数多く紹介しています。興味ある方はぜひ以下の記事もご覧ください。
- 中小企業はLinkedInでグローバルに認知度向上のチャンス
- LinkedInでビジネスネットワークを主体的に広げる戦術:Japan Expert Insightsオンラインディスカッション
4. 日本企業のグローバル化の変化と地政学
ここで再び視点を広い世界に移します。アンソニー・グリフィン氏が来日した15年程前、日本企業は成長著しい中国マーケットや他のアジア諸国への進出に積極的であり、米国市場への参入は緩やかであったように見えたと同氏は語ります。当時アメリカはほとんどの製品やサービス成熟した市場であったのです。来日直後であり、当時日本企業の米国市場参入の支援に燃えていた同氏にとってはハードなタイミングでした。しかしパンデミック後、地政学的な変化を受け、日本は政府・民間企業共に事業、エリアを多様化し、再び米国への参入への関心を高めています。
そこで、日本企業が欧米市場に参入する際の課題や戦略について、アンソニー・グリフィン氏の経験から学びましょう。アンソニー氏は、日本企業が米国で事業展開する際には、まず自分の強みを見直す必要があると言います。例えば、日本製品のイメージは、高品質、高機能、信頼性などにおいて非常に高く評価されています。しかし、これらの特徴は、すでに米国市場に存在する他の競合製品と似ているかもしれません。そのため、日本企業は自分の商品やサービスに何が付加価値を与えるのか、その点を明確にしておかなければなりません。それは技術的な革新であるかもしれないし、デザインや使いやすさ、環境への配慮などであるかもしれません。ポイントは、日本企業が自分のストーリーや哲学、ミッション、ビジョンなどを伝えることで、消費者やパートナーの心に訴えることができるということです。
また、日本企業が欧米市場に参入する際には、現地の文化や法律、規制、消費者の嗜好などに対応する能力も重要です。日本企業は自分のカルチャーを大事にする一方で、現地のカルチャーにも敬意を払う必要があります。そして、現地のカルチャーに適応することは、単に言語的な問題だけではなく、ビジネススタイルやコミュニケーションスタイル、働き方や人事管理など、幅広い側面に及びます。これらのことを理解し、現地の人材やパートナーと協力することで、日本企業はより成功する可能性が高まります。
5. 日本ブランドと知的財産
アンソニー・グリフィン氏は、中小企業の経営者や起業家と話す中で、日本というブランドの素晴らしい認知度と需要を活かしきれていないと感じる時があると話します。もちろん巨大な自動車産業、エンターテイメント業界が多くの知的財産を引っさげ、世界を席けんしていることは言うまでもありません。2023年の大ヒット映画となったアニメ映画「スーパーマリオ」は、海外で知的財産を成長させた好事例でしょう。もっと前に公開された最初のマリオ映画やゲームとは世界観が異なり、新しいファンを獲得しました。
スーパーマリオとまでいかなくとも、そのような素晴らしい知的財産を眠らせてしまっている企業はたくさんあるのではないでしょうか。まずは、自社の商標や知的財産の特徴や価値を明確にし、さらにはその需要に気づくところから始めてください。とアンソニー・グリフィン氏は強調します。続いて海外市場には自分たちと似たような商品やサービスがあったり、時には製品名が既に海外市場で使用されていたり、英語訳が適切でない場合もあるので簡単な調査も行ったほうが安全です。さらに、具体的に展開を進める場合、海外市場の法律や規制、習慣や文化に精通し、自分たちの商標や知的財産を保護するための必要な手続きや対策をとる必要があります。もちろん専門家や現地のパートナーと協力するべきです。そしてコミュニケーションパートも積極的に取り組まなくてはいけません。2項では、海外の企業が日本市場に”売り込む”ことについてお話しましたが、日本の企業が自社の知的財産を海外で展開する際にも同様のコミュニケーションが必要です。自社のマーケティングコンテンツをただ機械翻訳するのではなく、ローカライズし情報発信することで海外市場の消費者やパートナーに自社の商標や知的財産をより深く理解してもらうことができます。そしてフィードバックやニーズに耳を傾け、改善へのプロセスに役立てるべきでしょう。これらの活動には、日本市場で行ってきたマーケティングプランを適切に現地にローカライズできる人材が必要だと言えます。AIツールなどを使い、コピーライティングやデジタルコンテンツ制作を効率的に進めることはできますが依然100%信頼することはできません。1%、もしくは2-3%の誤りがあるかもしれません。グローバルに競争するならば、この数パーセントにこだわる必要があります。実際のお客さまとの双方向なコミュニケーションには人が関与し適切なローカリゼーションを行うことでこの数パーセントをクリアし、オンライン/オフライン共に競争力を高められるのです。
アンソニー・グリフィン氏は、日本企業の海外展開の可能性について非常に期待しており、そして、彼の豊富な経験と専門知識をもとに、その成功に貢献したいと考えています。この記事では、同氏のインサイトの一部を紹介しましたが、詳しくは本ポッドキャスト番組よりお聞きいただけます(英語ポッドキャストのみ)。
最後までお読みいただきありがとうございました。